はらぺこ本の虫

読んだ本をゆるーくご紹介。ジューシーな文章が大好物です。

グアテマラの弟

片桐はいり

グアテマラの弟」


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キノコのような髪型でカクカクっとした輪郭に大きな目が特徴的な俳優さん、というイメージの片桐はいり。こんなに楽しい文章が書けるんだ、という発見とともに、読んでいて何度も笑わせてもらった。個性的な役を演じていることが多いけれど、本人も役柄に負けないほど楽しい人なんだろうな。


グアテマラにいる弟を中心とした、旅と家族と思い出の話。

私も世界一周の時に立ち寄ったグアテマラをとても気に入ったので、弟さんの気持ちが分かる気がする。なんだか、居心地がいいのだ。みんな優しく陽気で、せかせかした日本とは違い、グアテマラには穏やかに暮らせそうな雰囲気がある。


グアテマラの人たちは麦茶のようなコーヒーに砂糖を何杯も入れるらしい。弟の奥さんのペトラさんは「人生はあまりにも苦いから、せめてコーヒーだけは甘くするのよ」と言っていた。

ペトラさん語録は他にもある。

グアテマラ料理を習った時には「美味しいごはんさえ作れれば、人生たいていの問題は解決できる」と母から料理の手ほどきを受けたのだと教えてくれた。素敵だ。


物価が安い所に住む人は貧しいのか?

急激な経済成長を遂げた国は、本当に豊かになったのか?

しあわせって何なのか?

自分の居場所はここなのか?


YESNO2択なんかでは答えられない私の中の永遠の問いに、また新たな気づきを与えてくれるような一冊だった。

あとがきを弟さんが書いているのも、また良い。


蚊がいる

穂村弘

「蚊がいる」


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ずっと結婚できなかったのは知っていたが、結婚してからは奥さんネタのエッセイが増えている。しかしこの穂村さんが見初めただけあって、なかなか奥さんもおもしろい。


「東大でいちばん馬鹿な人になら勝てると思う?」や「滝川クリステルとなら顔を取り替えてもいいな」という返事に困るびっくり発言から、穂村さんが今日の出来事を尋ねた時に答えた「お昼に行った喫茶店でマスターとお客さんがオセロやってた。黒がレの字になってたよ」という報告。穂村さんのファンとしては、奥さんもなかなか世間とズレていて好感が持てる。天然なんだろうな。いいな。


解説で陣崎草子さんが穂村さんを表現していたこの言葉もなかなか良かった。

"(穂村さんは)自分の「できなさ」を道具として世界を解析しつづけることで、「神が創りたもうたこの世界」のほころびを、舌を巻く細やかさで指摘し、摂理のおかしさを暴こうとしている。"

穂村さんはベッドで菓子パンを食べてたり、なかなかお店のトイレに行けなかったり、世間一般的に見れば情けない感じの大人かもしれないけれど、自分でそのダメさをちゃんと認識して言葉や短歌に落とし込むのが本当にうまいと思う。こういう人もいますよ、あなただけではないですよ、大丈夫ですよ、っていつも勇気づけられている。

ホテルカクタス

江國香織

「ホテルカクタス」


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大人のための童話なのかも、という印象。

というのも、登場人物が、帽子、きゅうり、数字の2、という人間ではない人たちだから。彼らの名前はあだ名ではなくて、きゅうりはシャワーを浴びれば身体の緑が冴えるし、数字の2がのびのびと寝る時は数字の1のような格好になる。そんな描写に思わず、ふふ、と笑ってしまった。しかも、帽子は帽子らしく、きゅうりはきゅうりらしく、そして22らしく、それぞれがそれぞれらしい性格をしているのもおもしろい。

この物語は心がきゅっと締め付けられるような恋愛話もなく、細かな心理描写が散りばめられてることもなく、穏やかに流れていく日々のようで、やさしい物語だった。


物語後半で帽子が言った「世の中に、不変なるものはないんだ」という言葉。

童話のようだと思って読んでいたはずが、急に現実に引き戻されたような気がした。実際、私が旅をしている中でも、このおじいさんには次来た時はもう会えないんだろうな、この古い建物の町並みはそのうち壊されて新しい建物になるんだろうな、などと考えることが度々あった。そう、帽子の言う通り、世の中はどんどんと移り変わっていくのが常なのだ。


だから、仕方ない気もするけれど、約1年ぶりに日本に帰ってきたので、自分の日本語の表現力が乏しくなっていて、感想が貧相になってるのが悲しい。リハビリが必要だなぁと感じた。

蒼い時

山口百恵

「蒼い時」


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もうすでに完結しているコンテンツだから安心して接することができる、というのもあるのだと思う。

数年前から私は山口百恵のファンなのだ。


私のカラオケの十八番は「プレイバック Part2」。歌いながら泣いちゃうのは「秋桜」と「さよならの向う側」。最高にかっこいいと思う曲は「ロックンロール・ウィドウ」。

母の影響もあってか、有名な百恵ちゃんの歌はほとんど歌える。

それほど好きなのだ。


百恵ちゃんは私が生まれる何年も前に引退している。

誰かが言っていたけれど、昔のアイドルを今追っかけるのは考古学者に似ている。私たちは古い雑誌の記事や動画を"発掘"して喜ぶのだ。

Twitter上で、百恵ちゃんの「プレイバック Part2」と沢田研二の「勝手にしやがれ」をテレビ番組でコラボしていたことを知った時には鼻血が出そうなくらいテンションが上がった。この組み合わせ、最高じゃないですか。若い人にはわかりませんか。いや、若くなくてもわかりませんか。すみません。


今回の本は、古本屋でたまたま"発掘"した百恵ちゃんのエッセイ集。

今まで華やかな百恵ちゃんしか追いかけていなかったので、裕福ではなかった過去や父親との関係、裁判の事件などを初めて知った。

21歳で芸能界を引退した百恵ちゃん。そんな若い子がこんな苦労をしながらも、凛としたイメージを壊さないように、自分で考え、行動していたのだと思うと心がぎゅっとなる。

自分が21歳の頃は何をしていただろうか。


引退のさよならコンサートではファンから「百恵ちゃん辞めないでー!」と言われていて、それに対して同じ気持ちでいた私だったけれど、この本を読んでからは少し考えが変わった。百恵ちゃんには芸能界から離れて、平和で穏やに暮らしてほしい。幸せになってほしい。そう思うようになった。

引退してから38年が立ちますが、今、幸せですか?百恵ちゃんが幸せなら私も嬉しいです。


ちょっとしんみりしてしまったので、最後に本書で私が気に入ったフレーズを。

「髪型を変えるということは、女にとって勇気のいることではあるが、新しい自分を発見するキッカケになるし、たったそれだけのことで、本当に生まれ変われたような気持ちにもなる。

髪型を度々変える人は、移り気だという。たしかにそうかもしれない。しかし、移り気は冒険心の第一関門である。画一化された日常生活の中で、ささやかな冒険心を満たすには、髪型を変えることぐらいしかないような気もする。」

私も髪型を変えてみようと思っている。東南アジア系のような、一目見た感じでは日本人に見えない髪型。

旅人っぽさをもっと前面に押し出したい。

二十億光年の孤独

谷川俊太郎

「二十億光年の孤独」


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詩や短歌は小説よりも書いてある文字は少ないけれど、その少ない言葉で作者は何を言おうとしているのかを汲みとりながら読むので時間がかかる。それに、自分の内面が冷静でなければ集中できないから、心がうきうきしている時には読めない。

そんな変な性格に付き合わされて、この本は5年近く本棚に眠っていた。

正確に言えば、はじめの数ページを読んでは本棚にしまい、また気が向いて少し読んではしまいを何度も何度も繰り返していた。そして、やっと、今、最初から最後まで読み終えたのだった。


私たち姉妹は谷川さんの翻訳した絵本を読んで育った。

スイミー、ペツェッティーノ、アレクサンダとぜんまいねずみ、シオドアとものいうきのこ、とっときのとっかえっこ、など(よく考えたらほとんどレオレオニだ)。そして、大人になってからはフレデリック、さかなはさかな、コーネリアスを読んだ(こちらもすべてレオレオニ)。

案外ずっとお世話になっていたのに、詩集を読んだのは今回が初めてだった。


タイトルにもある「二十億光年の孤独」や、亡くなった犬を思って書かれた「ネロ」という詩も当然良いのだけれど、一番気に入ったのは「初夏」だった。その中に少年というカテゴリがあって、


"永遠とは魂にとってなんという倦怠だろう

そして又何という恐怖であろう

ある遊星の一時期とその小さな幸福

ひとつの脳とその美しい恣意の形

そして

ひとつの心とそのいじらしい大きさ

それらの豊かさに僕には答がない"


と書かれていた。

これを読んだ時、体がぞわ~っとなるような、地上から3mmほど浮いてるような不思議な感覚に陥った。

詩は深い。

ふりむく

=松尾たいこ

=江國香織

「ふりむく」


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パリっとメリハリのある絵に江國さんのコロコロした楽しそうな文章が踊る。そんな本でした。


気に入ったフレーズをひとつ。


「ね、この海の水、その壜の白ワインに似ていない? (中略) 広大な白ワインが月あかりの下で揺れているし、つめたい夜の海が、わたしたちの体のなかに収まっているもの。」


海の水を白ワインみたいだと表現するその感性と、漢字ではなくひらがなにする言葉の使い方にいつもながらほほー、となる。

現実入門

穂村弘

「現実入門」


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穂村さんのことが好きだ。

本当に好き。

生活力のない感じとか、妄想にふけるところとか。でも、そんなへなちょこな自分を観察してエッセイにしちゃってるのが、またいい。

もっと読みたい、もっと知りたい、もっと近づきたい。そして、あなたを守りたい。私の欲望が高まるのがわかる。

私はダメ男に弱いのだろうな。


穂村さんに比べて、私は人生の経験値は高い方だと自分で思っている。まだ結婚や出産はしたことはないけれど、バンジージャンプをしたり昆虫を食べたりしたことはある。

しかし、42歳になっても合コンや海外旅行をしたことのない穂村さんを見る(読んで感じる)と、なんてピュアなんだ、と思う。ピュアすぎてまぶしい。触れない。近づけない。

彼は私がとうに失ってしまったものを持っている。


穂村さんは"世界"を怖がっているからこそ、そんなピュアさを保てているのだろうな。

うーん、好きだ。

ずっとその感性を失わずに歳を重ねてほしい。