はらぺこ本の虫

読んだ本をゆるーくご紹介。ジューシーな文章が大好物です。

犬とハモニカ

江國香織

「犬とハモニカ

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短編集。一番のお気に入りはゲイカップルがポルトガルで休暇を過ごす「アレンテージョ」。以前読んだアンソロジー「チーズと塩と豆と」に載っていたので、読むのは2度目だった。

ごはんを食べる時の描写がとても愛おしい。

"僕は思うのだけれど、おなじものをたべるというのは意味のあることだ。どんなに身体を重ねても別の人格であることは変えられない二人の人間が、日々、それでもおなじものを身体に収めるということは。"


坂本真綾の「パプリカ」という曲にも似たような歌詞があったのを思い出した(作詞はやっぱり岩里祐穂)。私はきっと、恋人同士でごはんを食べる、ということをとても重要視してるのかもしれない。


それにしても、江國さんの作品はどういうわけか鎮静剤のような効果があると思う。荒れていた心を鎮めてくれる。知性のかけらが見え隠れするからか、ミステリアスな大人の雰囲気に酔えるからか。

今回もなぜだか救われた気がした。

ロック母

角田光代

「ロック母」


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19922006年までの短編小説。

若い頃の作品は言葉の荒さや題材の刺々しさが目立っていたけれど、年を重ねるごとに深みのある物語が書けるようになってきたのだと、この一冊で成長を感じた。


特に笑ったのがタイトルにもなってる「ロック母」。実家のある島に帰ってきた身重の娘は、母が爆音でニルヴァーナを聴いていることに唖然とする話。

小さく閉鎖的なコミュニティである島に住むということ、一切の家事を放棄した母親、出産シーン。苦い日常とそれに絡む意外性のある出来事とが混ざり合って面白い味が出ている作品だった。


「緑の鼠の糞」というタイを旅する若者の話は、特に食事シーンがよかった。

外気の暑さと料理の辛さに頭と体がマヒして"次第に周囲の物音が消えて"いき、"熱気につつまれた皮膚という壁が極限まで薄くなり、自分の体がこの暑さと同じくどこまでも広がっていくように感じられる"という、恍惚というかハイになる瞬間の表現がすごく上手だと感じた。わくわくした。

本当にタイでプリッキーヌを食べるとこんな感じになるのだろうか。試してみたい。

深夜特急1

沢木耕太郎

深夜特急香港・マカオ


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香港旅のために読み始めた本。

本屋に置いてある有名どころのガイドブックや女子向けの旅行本を読むだけじゃわからないディープさを求めて読んでいたが、なかなか怪しげな雰囲気のある香港を知れて良かった。


後で調べたら、私が現地通貨を両替しに行ったマンション(ビル?)の上が、彼の泊まった宿のようだった。確かに1階に踏み入れた時点でディープな雰囲気があった。

本には書かれてなかったが、なぜかインド系のおじさんがたくさんいた。現在はインド系のコミュニティができているマンションになっているのだろうか。謎は深まる。


彼はあとがきの対談でこう話していた。

「二十五、六ぐらいで行ったらいいなと思うのは、いろいろな人に会ったり、トラブルに見舞われたりするたびに、自分の背丈がわかるからなんですよね」

26歳で初めて海外へ旅に出たそうだ。

でも確かに、若すぎても経験不足から危ないことに巻き込まれる可能性も高くなるだろうし、知識やトラブル対応力も未熟だろう。それに比べて、ある程度の判断力や処世術が身についた頃に旅に出たほうが、自分の安心と安全が確保できて、周りを見て楽しめる余裕が生まれると私も思う。

私も初めての海外は19歳で、何が何かわからぬままベトナムへ。10日間の滞在で初日は泣きそうになった。腹も壊した。ベトナムのことをほとんど知らなくて楽しみきれなかった。

しかし、今なら(だいぶ旅慣れたところもあるが)19の頃よりも知識も度胸も増えて、旅を楽しめるようになったと思っている。


それでもまだ、日本にいると気づきにくい"身の丈"やらを旅をして思い知ることも多い。特に言語。旅に出るたびにやっぱり英語と中国語がいるなぁと反省する。とりあえずで乗り越えては来ているのだけれど、まだまだなのだ。

ゼロから始める都市型狩猟採集生活

坂口恭平

「ゼロから始める都市型狩猟採集生活」


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びっくりするほど面白い本だった。

都市でゼロ円で生活するノウハウが実体験とインタビューをもとに書かれている。


去年くらいだっただろうか、"ミニマリスト"が流行ったと思う。少ない持ち物でやりくりしながらスマートに生活する人たちのこと。

実はホームレス生活は究極のミニマリストなのでは?と思った。


見習うべきところがたくさんある。

どれだけの電気量でパソコンが使えるのか?1日に使う水はどれくらいなのか?ガスは1か月でどれほど必要なのか?

電気や水道などのインフラが整った家に安穏と暮らしている私は何も知らない。請求された分だけ素直にお金を支払っている。

そのまま、知らないままでいいのだろうか。


ただ、ピースボートで地球一周をしながら船の中で過ごした3か月半の生活はホームレスの生活にちょっとだけ近かったのかもしれない。

部屋にはコンセントやシャワー、ベッドなどはあったけど、冷蔵庫なし、キッチンなし、電子レンジなし、カセットコンロもダメ、売店は高いしすぐ閉まる、携帯も使えない(海上なので電波がない)、洗濯は洗面所で洗ってベッドのカーテンレールに干す、といった状態で、それでもなんとかやりくりしていた。

不便はあったけど、悪い生活ではなかったな、と今になっては思う。


今までは大阪の民族学博物館や愛知のリトルワールドなんかで、東南アジアの家の実物大の展示を見て「こんな狭い空間に家族6人か」などと思っていた。

でもそれは、自分のものさしでしかものを見れていないってことだった。恥ずかしい。人はダンボー2個分の空間でも生きていけるのに、狭いって何だ。ものを持つこと、広い場所に住むことが裕福なのか。


忘れていた。私は日本一周した時に軽自動車で寝泊まりしていたのだ。大人4人しか乗れないあの空間でぐっすり寝ていたのだ。

人はどこででも生活できる。


また、本書でも紹介されているが、鴨長明の「方丈記」には、家を捨てて山に小屋を建てて過ごした時のことが書かれている。その小屋が簡単に組み立てられる移動式ハウスだったそうで、「動かすことのできない家に住むことは、合理的な態度ではない」と書かれているらしい。

やはり、ミニマムで動きやすいということは利点なのだ。


快適な車中泊生活再開への憧れが募ってきた。そして野草を見分けられるようになって、生活全体がアウトドアみたいな生き方をしたい。

本当の自分に出会う旅

鎌田實

「本当の自分に出会う旅」


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ただの旅行記ではない。

年をとっていても、足腰が悪くても、障害があっても、ガンを患っていても、旅をしていいんだと勇気づけてくれるエッセイ。

医師の鎌田實だから書けた、柔らかくてしっかりとした文章がいい。

病気と闘うというよりも、しんどいことに囚われることなく前を向きながらながら旅をすることで、病状が回復したり介護度が改善したりするそうだ。奇跡みたいなことが本当に起こっている。好きなことをするって、体にも心にもいいんだな、と気づかされた。


鎌田さんは「自然の中に入るとホッとして、副交感神経が刺激されてリンパ球がふえて、免疫力が上がる。生きる力が増すのだ。だから、旅をして、自然の中に入っていき、ホッとしたり、夕陽に感動したりすることが大事なのだ。」と語っている。

会社勤めの向いてない私は社会に出てことごとくへこたれてるけど、会社を辞める度に旅に出ている。そうすると元気になる。それはきっと副交感神経が刺激されるからだったのだろうな。


また、本書でも軽く触れているが、鎌田さんが代表を務めるJIM-NET(日本イラク医療支援ネットワーク)というものがあり、私はそこが開催してるチョコ募金に2年前から協力している。まさかJIM-NETの話が出るとは思ってもなくて、自分もこの本に少し関われたような気がしてなんだか嬉しくなった。


わたしがいなかった街で

柴崎友香

「わたしがいなかった街で」


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友達がやってた演劇の中で使われていた本。

勧められたわけじゃないけど、ちょっと興味があって読んでみた。


著者はよくものを考える人なのかな、という印象。考えすぎて哲学的になって自分でも混乱しちゃうみたいな。そんな感じを受けた。

昔の私もこういうところあった。


"日常"ってどういうことだろう、というぼんやりした気持ちを、ゆっくり煮詰めながら考えていくような話。


印象的だった場面は(ちょっと長いが)、

「日常という言葉に当てはまるものがどこかにあったとして、それは穏やかとか退屈とか昨日と同じような生活とかいうところにあるものではなくて、破壊された街の瓦礫の中で道端で倒れたまま放置されている死体を横目に歩いて行ったあの親子、ナパーム弾が降ってくる下で見上げる飛行機、ジャングルで負傷兵を運ぶ担架を持った兵士が足を滑らせて崩れ落ちる瞬間、そういうものを目撃したときに、その向こうに一瞬だけ見えそうになる世界なんじゃないかと思う。

しかし、それは、当たり前のことがなくなったときにその大切さに気がつくというような箴言とはまた別のことだ。(中略) 自分がここに存在していること自体が、夢みたいなものなんじゃないかと、感じること。」

というもの。戦争のドキュメンタリーを見ていた主人公が感じた内容だった。


"一瞬だけ見えそうになる世界"


この言葉が引っかかった。

どういうことだろう。

テストで国語の問題を解く時のように久しぶりに何度も読み返して考えた。

これが日常だ、というもの・ことは、ふとした瞬間に現れて、記憶として捕まえられそうなのに捕まえられなくて、気づいたら過ぎ去っていた、みたいなものなのかなぁと思ったり。

ガイドブックにぜったい載らない海外パック旅行の選び方・歩き方

佐藤治彦

「ガイドブックにぜったい載らない海外パック旅行の選び方・歩き方」


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先日読んだ「ひとりっぷ」とは逆に、こちらはパックツアーで海外旅行する人向け。

でもやっぱり、こちらの本にも現地の自由行動はバスがいいと書いてある。私、バス苦手なんだよなぁ、と渋い顔をしながら読んでいた。


というのも、私の住んでいるところは田舎で、最寄りのバス停は1日に5本程度しか停まらないのだ。だから、そもそもバスに乗る文化がない。バスに乗るくらいなら、自家用車でスイーっと買い物にもレジャーにも出てしまう。

"バスの乗り方が分からない"と言っても過言ではないかもしれない。乗ったことがないことはないけれど、いつも緊張する。

行き先合ってる?乗り込むのは前から?後ろから?整理券取るよね?降りるとこどこ?次?小銭ないんだけどどうしようというように、かなり不安いっぱいで乗ることになる。海外なら言葉もスムーズに通じないからなおさらだ。


ただ、2冊読んで2冊ともバスを勧めてくるくらいなので、やっぱり慣れなきゃなぁ、と改めて思った次第です。

次の目標は「海外でローカル路線バスに乗ること」にしよう。来月ソウルと香港・マカオに行く予定なので、たぶんそこで練習できるはず。

今日も世界のどこかでひとりっぷ

ひとりっP(福井由美子)

「今日も世界のどこかでひとりっぷ


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旅好き女子必見の1冊。

著者はわりとリッチな旅(11万円のホテルとか)が多いけど、荷物やごはんに関しては私みたいな貧乏旅をする人にも参考になる。

荷物減らすために私も旅先で下着洗おう!ってなった。

あとは、今度の旅ではマイクロファイバーのタオルを持って行こうかな、と計画中。


特にドバイに行きたい欲が高まる本だった。

いつか行ってやるぞ~、ドバイにあるという"世界一美しいスターバックス"!!

がらくた

江國香織

「がらくた」


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江國さんの本を読んでいると、たまに「付き合ってる人がいてても結婚してても、好きな人ができればセックスしていい」っていう感覚になる時がある。この本もそう。私は誰のものでもない、という精神的・肉体的に自立した姿でもあり、性に奔放な軽い人という感じにも思える。現実的に見ればだめなんだろうけど。

だからこそ江國さんの書くそれは一種のファンタジーなのかな、とも思う。

感受性が豊かでよくものを考え、好きな人に好きだと全身で伝える。甘くて美しくて健やか。そんな魅力的な人、周りには中々いない。小説に出てくる柊子もミミちゃんも柊子の夫もミミの父親も、みんな甘くて美しくて健やかなのだ。


印象に残った一節。

「私が事情から学んだことだ。すべての男の人はちがうかたちをしており、ちがう匂いがする。ちがう声を持ち、ちがう感じ方をする、それらを比較することはできない。できるのは、一つずつ味わうことだけだ。」

いつも思うけど、江國さんのひらがなの使い方が好き。



お父さん大好き

山崎ナオコーラ

「お父さん大好き」

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短編集。

私の父も含め、おじさんはおもしろいし、かわいいと思う。

だから、「ハッピーおじさんコレクション」という、おじさんをフィーチャーしたサイトを運営する主人公の気持ちがわからなくもない。私も電車でおじさん観察をして楽しむことがある。

薄くなった髪の毛を気にしてヘアスタイルを工夫しているところとか、ビニール傘をどこに引っ掛けて持つかとか、電車のつり革のつかみ方とか、持ってるのはスマホなのかガラケーなのかとか、手の甲に浮き出た血管とか。おじさんには若い男の子にはない深み・コクみたいなものがあると思う。そこにキュンとするのだ。

ペルセポリス

マルジャン・サトラピ(園田恵子訳)

ペルセポリス I イランの少女マルジ」「ペルセポリス マルジ、故郷に帰る」


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戦争って経験しないと他人事なんだな、と今の平和な日本にいて思う。いくら戦争に関する本を読んでも、原爆ドームを見ても、その時はぐっと悲しさとかやるせなさが溢れてくるけど、それから離れると忘れてしまう。


本書は半自伝的な話で、作者であり主人公であるマルジは戦争のあるイランで生きている。友達や親戚が死ぬ、軍隊や革命防衛隊に捕まる、なんてことが当たり前の世界。

そんな中でもバレないように音楽を聞いたり、パーティーをしたり、こっそり楽しみを見出していたというところに、戦時中の日本をテーマにしたドラマや映画を思い出した。弾圧された環境の中であらがいながらも生きている姿に、人種や国に違いはないんだろうな。


"イラン"と聞くと戦争やテロといったイメージばかりが目立つけど、世界遺産もたくさんある。本書では説明されてないが、題名にもなっているペルセポリス世界遺産に登録されている。また、ナスィーロル・モルク・モスク、別名ローズモスクとも呼ばれている素敵なモスクもある。そこのステンドグラスを一度でいいから見てみたい

イランは行ってみたい国のひとつなのだ。


旅したいっていう興味から、中東を少しずつ勉強していってるけど、戦争やイスラム教についてまだまだ知らないことがたくさんあるといつも思う。だから、またしばらくしてからこの本を読むと、次は違ったことを考えるかもしれないな、と感じた。

とるにたらないものもの

江國香織

「とるにたらないものもの」


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子どもの姿をした江國さんが、こっそりと宝箱を開けて見せてくれるようなエッセイ。

日常のなんでもないことをよく観察・分析しているな、といつも思う。本人はそんな自覚はないのかもしれないけれど。


私も幼い頃に何を考えてたか思い出してみる。


トイレから出る時、いつも怖かった。

個室という空間で、自分ひとりしかいないし、外の世界と繋がっているのは目の前のドアしかない。そんな状況で、「この扉を開けたら知らない世界に通じているかもしれない」「もう家族の元に帰れなかったらどうしよう」という不安にたびたび襲われていた。

そして扉を開けて、いつも通りの家の廊下が見えるとホッとする。「ああよかった、今日も大丈夫だった」と思うのだ。

ドラえもんの見過ぎだったのかもしれないけれど、この頃は、幽霊や異世界がもっと近しいものだったのだろうな。


大人になるということは、冷静になってしまったり、図太くなるということ。それはそれで、少しさみしい。

江國さんのように、いつまでも子どもみたいなホクホクした感性を持ち続けたい。

旅のうねうね

グレゴリ青山

「旅のうねうね」


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旅マンガエッセイって面白い。

私がもう少し画力をつけたら旅マンガエッセイをかけるかもしれない。なんだか俄然やる気が出てきた。


そして、作者のようにちょっと中国語ができれば、旅はもっと楽しくなるのかなぁと思った。

私の友達が「言語は前進か後退しかない。現状維持はない」と言っていた。確かに、大学で単位を取っただけのドイツ語もフランス語も今では記憶の彼方だ。かろうじてハングルは韓国ドラマをたまに見るので覚えている。

中国語まで手を出したらだめだろうか。いや、いいよね。忘れない程度の頻度で台湾に行けってことだよね。そう言って旅に出る口実を作ってるような気もする。


本の所々に作者が敬愛する旅名人の、旅のことばが挟み込んである。その中でも高見順の「旅」から引用した文がなかなかよかった。


"ではしばらく失礼をいたします

さようなら忙しいみなさん"


うんうん。

私ももうすぐ「さようなら忙しいみなさん」って言って旅に出てやるんだ。

給食のおばさん、ブータンへ行く!

平澤さえ子

「給食のおばさん、ブータンへ行く!」


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1年くらい前、JICA関西食堂で食べた月替わりランチがブータン料理だった。予想外の辛さにびっくりしたのを覚えている。

そのあたりからブータンに少しずつ興味を持っていた。


この本は60歳を前にして、ブータンへ料理を教えに行った人のエッセイ。私も彼女のようにいくつになっても情熱を持ち続けたい。

ずっと心に夢(野望?)を抱えていれば、チャンスが来た時に逃さないで済む。「チャンスの前髪をつかめ」とはよく言う。チャンスの神様は前髪しかないのだ。めったに出会えない神様に会った時に、「今しかない!」とつかみかかる心の準備をいつもしておかなきゃな、と思った。

旅をする木

星野道夫

旅をする木


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この本を読むタイミングは、本当に""だったんだと思う。


都会に疲れて、ストレスでおなかが痛くて、尊敬できる人も近くにいなくて。毎日ただただ目の前にある仕事をこなし、ぬるま湯に浸かってるだけのようなふやけた生活をして、"生きている"ということがぼんやりとしていた。


通勤電車の中で読んでいて、何度も涙が出てきた。うまく言えないけれど、豊かな感受性を持つ作者の描くアラスカに、素直に感動していた。

マイナス40度にもなる極寒の大地。冷たく灰色なイメージなのに、この本からはいつも温かみを感じた。


やっぱり、私の帰る場所は大自然の中なのかもしれない。あたかも人間が自然を制圧したかのように振舞っている都会が苦手だ。


しかし、作者は決して「自然は素晴らしい=人間は嫌い」の図式にはならない。おそらく、人間も自然のちっぽけな一部なのだ。


だから、作者はカリブーの群れだけでなく、エスキモーやインディアンと出会い、異文化(こんな簡単な言葉では一括りにできないけれど)を直接肌で感じた。

私も作者のように、魂の震えを感じたい。


そして、じっくり自分と向き合う時間をつくりたい。そのためにも環境を変えなければ。


最後に本文から引用。

"二十代のはじめ、親友の山での遭難を通して、人間の一生がいかに短いものなのか、そしてある日突然断ち切られるものなのかをぼくは感じとった。私たちは、カレンダーや時計の針で刻まれた時間に生きているのではなく、もっと漠然として、脆い、それぞれの生命の時間を生きていることを教えてくれた。自分の持ち時間が限られていることを本当に理解した時、それは生きる大きなパワーに転化する可能性を秘めていた。"


この本は、新しい生活をしたい私の背中を押してくれた一冊になった。