「なつのひかり」
これは江國流のファンタジーなのだろうな。
不思議の国のアリスのように、変わった人(たまにヤドカリ)と出会い、次から次へと異なる空間へ場面が展開する。
いまいちつかみどころのない小説だと思ったが、もしかすると、これは実験的小説なのかもしれない。
文中に何度も出てくるフレーズ「◯◯の話をしよう。」も、場面転換する方法としては新鮮。しかも今作のような細切れの話には、この手法がマッチしているようにも思う。
また、ほぼ意味のない物語をこの世へ投入することで、
"小説というのは必ず意味を持たなればならないのか?"
という問いを投げかけているようにも思う。「読んで勇気が出た」「気に入ったから他の作品も読んでみたい」などという、読者の優等生的発言をこの作品は全く求めていない気がする。ある意味孤高で、易々と媚びない。そして圧倒的な独創性。
私の考えすぎだろうか。
ここまで書いて、巻末の解説を読んでみた。
担当した作家さんも解説を書くのに苦戦しているようだったが、私の感想よりずっと大人な対応だった。うまくまとめている。
江國さん、意味のない物語って言ってごめんなさい。今回は少ないけど、たまに現れるこころ躍るような表現は好きです。
例えば、麦茶を「澄んだ枯れ葉色のつめたいお茶」と表現するところとか。