「ロック母」
1992~2006年までの短編小説。
若い頃の作品は言葉の荒さや題材の刺々しさが目立っていたけれど、年を重ねるごとに深みのある物語が書けるようになってきたのだと、この一冊で成長を感じた。
特に笑ったのがタイトルにもなってる「ロック母」。実家のある島に帰ってきた身重の娘は、母が爆音でニルヴァーナを聴いていることに唖然とする話。
小さく閉鎖的なコミュニティである島に住むということ、一切の家事を放棄した母親、出産シーン。苦い日常とそれに絡む意外性のある出来事とが混ざり合って面白い味が出ている作品だった。
「緑の鼠の糞」というタイを旅する若者の話は、特に食事シーンがよかった。
外気の暑さと料理の辛さに頭と体がマヒして"次第に周囲の物音が消えて"いき、"熱気につつまれた皮膚という壁が極限まで薄くなり、自分の体がこの暑さと同じくどこまでも広がっていくように感じられる"という、恍惚というかハイになる瞬間の表現がすごく上手だと感じた。わくわくした。
本当にタイでプリッキーヌを食べるとこんな感じになるのだろうか。試してみたい。