はらぺこ本の虫

読んだ本をゆるーくご紹介。ジューシーな文章が大好物です。

ヤモリ、カエル、シジミチョウ

「ヤモリ、カエル、シジミチョウ」

江國香織



さまざまな登場人物たちの視点が切り替わりながら進んでいく小説。その中でも、幼稚園児の拓人目線で進んでいく話が私は一番気に入っている。子どもには子どもの世界やルール、子どもなりの大人への気遣いみたいなものがあるんだった、と思い出させてくれる。


自分が幼稚園児だった頃の記憶はほとんどないけれど、園舎の階段下にあった大きな水槽にいたグッピーの尾ひれがキラキラとしてきれいだったことや、グラウンドの端にある針葉樹の下の茂みで何匹もバッタを捕まえたことは今でも覚えている。何度も一緒に遊んだ友達のことや毎日見ていた先生の顔よりも、そういったことばかりが鮮明に残っているのは不思議でもある。


でもきっと、覚えてないだけでもっと不思議な出来事があったかもしれない。小さな生き物ーーヤモリやカエル、シジミチョウなどーーの言葉が分かる拓人のように。

私の妹は、阪神淡路大震災が起こる直前に夜泣きをして、台所にいた母親を寝室へ呼び戻したらしい。母は「そのままキッチンにいたら大怪我するか死んでいたはず」と言っていた。妹はきっと何かを感じたのだと思う。

幼い子というものは人間よりも動物に近い気がする。もしタイムスリップできたなら、幼児の頃の自分や妹たちを観察しに行きたい。