はらぺこ本の虫

読んだ本をゆるーくご紹介。ジューシーな文章が大好物です。

冷静と情熱のあいだ Rosso

江國香織

冷静と情熱のあいだ Rosso


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日本にいるのに、全然小説を読めていなかった。他にも読みかけの本はあるけれど、最後まで読み終えたのは2ヶ月ぶり。ずいぶんと間が空いてしまった。


江國さんの小説は、恋愛の華やかさや幸せを感じさせる描写があるにもかかわらず、どこかいつも憂いを帯びている。これもそう。

平穏な日常は小さな出来事によってびっくりするほどあっさりと崩れてしまう。でも、自分の本当の気持ちには逆らえないと改めて知らされる。


やっぱり江國さんの小説にハッピーエンドは似合わない。ああいう最後でよかった。だって、登場人物は小説が終わっても、きっとどこかで生き続けている気がするから。江國さんの描くアオイはリアルだった。

いつか記憶からこぼれおちるとしても

江國香織

「いつか記憶からこぼれおちるとしても」


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江國さんの小説には固有名詞がよく出てくる。

だから、いつも半分リアル。本当に彼女たちがこの世界で生きているみたいな気がしてくる。


人は必ず誰しもバックグラウンドがあるわけで、でもそれは他人からは見えないもの。親しくなって話してくれてたとしても、全てを知ることはできない。

仲が良さそうに見える友達同士でも相手のことを本当はどう思っているのか、自分の家族関係、内緒にしているできごと、それらは全て冬の海に浮かんだ氷山に例えられるように、表面に出ている部分だけでは分からないものなんだよな、と改めて感じた。水中に沈んだ部分は見えない。


これは小説の中だけの話じゃなくて、現実世界でもそう。


机を並べて仕事をしている同僚、上司、私は彼らの全てを知ることはできないし、彼らも同様に私の考えや経験を完全に把握することはできない。歓迎会でバツイチだとカミングアウトされて驚いたり、見た目に似合わず猟奇的な性格してるなと感じたり、毎日顔を見合わせながら仕事をしていても知らないことがたくさんある。SNSでこんなに日常生活をシェアして生きている現代人でも。

だからこそ、相手はこうかもしれない、こんなことがあったからこう言ってるんじゃないか、など想像力を持って生活したいものである。

誰かを傷つけないために。


新型コロナウイルスの影響でテレビはコロナ関係のニュースしか流れなくて面白くない。外出は自粛しろと言われてどこへも行けない。売り上げも悪い。"コロナ疲れ"という単語も生まれる今日この頃。その溜まった鬱憤を晴らすかのように、SNSには心ない言葉がたくさん飛び交う。

直接ではないものの、批判的な言葉を目にすることによって、私も心に少なからずダメージを受ける。そんな時「この人は相手のことを考えて発言したのか相手のことをよく思ってないから表面だけ見てものを言ってるんじゃないか」と思うわけで。匿名だから関係ないとか、表現の自由を主張する前に、もっとものをよく考えて発言してもらいたい。


ちょっと脱線したけれど、この小説を読んで、誰しも目に見えないバックグラウンドを持ってるんだよな、ということを思い出したという話。

青春を山に賭けて

植村直己

「青春を山に賭けて」


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大学では第二外国語として、ドイツ語をとっていた。ドイツ語自体はもうほとんど覚えてないけれど、四角い顔のヒョロッとしたおじちゃん先生のことはよく覚えている。本や詩が好きな人だった。

そんな先生がおすすめしていたのがこの本。それ以来、約10年ほどずっと読みたいと思いながら読めていなかったのだった。先生、ついに読みましたよ。


私も冒険をするタイプなので、植村さんの行動力には憧れと尊敬の念を抱いた。

資金集めをするために、英語も十分にできないのにアメリカに渡り農場で働いたこと。フランスのスキー場でも、スキー初心者だった上にフランス語もままならない状態なのに、臆することなく働き、ジャガイモを食べながら貧乏生活をしたこと。アマゾンを60日もかけてイカダで川下りをしたこと。もちろん世界の山々にひとりで登ったことも。

すべて彼の人柄の良さや周りの人たちのサポートがあったからできたこともあるし、辛かったことも星の数ほどあるだろうけど、私も彼のように地球の上をウロウロしながら、いつまでも人生を楽しんでいたい。


しかし、私の山に関する知識は、NHKの「グレートトラバース」で得たものだけ。登山経験もほとんどない。地元の小さな山と、ロープウェイで駒ヶ岳に登った程度。なので、植村さんの持つ"世界で初めて五大陸最高峰に登頂"という登山の経歴は、ただただすごいことなんだろうな、という漠然とした感想を持っただけだった。

登山をもっと知ればすごさをより感じられるはず。このままではもったいない。

読んでいてそう感じた。


新型コロナウイルスの影響で今年はもう海外へ旅に行けないかもしれない。だったら、国内で人混みを避ける遊びをすればいい。山登りなら、大自然の中で気持ちのいい空気を吸ったり、体を鍛えたりできる。山の植物や鳥にも詳しくなれるかもしれない。

よし、次の目標は登山にしよう。

私は登山靴の相場を調べるためにネットの画面を開いた。

グアテマラの弟

片桐はいり

グアテマラの弟」


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キノコのような髪型でカクカクっとした輪郭に大きな目が特徴的な俳優さん、というイメージの片桐はいり。こんなに楽しい文章が書けるんだ、という発見とともに、読んでいて何度も笑わせてもらった。個性的な役を演じていることが多いけれど、本人も役柄に負けないほど楽しい人なんだろうな。


グアテマラにいる弟を中心とした、旅と家族と思い出の話。

私も世界一周の時に立ち寄ったグアテマラをとても気に入ったので、弟さんの気持ちが分かる気がする。なんだか、居心地がいいのだ。みんな優しく陽気で、せかせかした日本とは違い、グアテマラには穏やかに暮らせそうな雰囲気がある。


グアテマラの人たちは麦茶のようなコーヒーに砂糖を何杯も入れるらしい。弟の奥さんのペトラさんは「人生はあまりにも苦いから、せめてコーヒーだけは甘くするのよ」と言っていた。

ペトラさん語録は他にもある。

グアテマラ料理を習った時には「美味しいごはんさえ作れれば、人生たいていの問題は解決できる」と母から料理の手ほどきを受けたのだと教えてくれた。素敵だ。


物価が安い所に住む人は貧しいのか?

急激な経済成長を遂げた国は、本当に豊かになったのか?

しあわせって何なのか?

自分の居場所はここなのか?


YESNO2択なんかでは答えられない私の中の永遠の問いに、また新たな気づきを与えてくれるような一冊だった。

あとがきを弟さんが書いているのも、また良い。


蚊がいる

穂村弘

「蚊がいる」


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ずっと結婚できなかったのは知っていたが、結婚してからは奥さんネタのエッセイが増えている。しかしこの穂村さんが見初めただけあって、なかなか奥さんもおもしろい。


「東大でいちばん馬鹿な人になら勝てると思う?」や「滝川クリステルとなら顔を取り替えてもいいな」という返事に困るびっくり発言から、穂村さんが今日の出来事を尋ねた時に答えた「お昼に行った喫茶店でマスターとお客さんがオセロやってた。黒がレの字になってたよ」という報告。穂村さんのファンとしては、奥さんもなかなか世間とズレていて好感が持てる。天然なんだろうな。いいな。


解説で陣崎草子さんが穂村さんを表現していたこの言葉もなかなか良かった。

"(穂村さんは)自分の「できなさ」を道具として世界を解析しつづけることで、「神が創りたもうたこの世界」のほころびを、舌を巻く細やかさで指摘し、摂理のおかしさを暴こうとしている。"

穂村さんはベッドで菓子パンを食べてたり、なかなかお店のトイレに行けなかったり、世間一般的に見れば情けない感じの大人かもしれないけれど、自分でそのダメさをちゃんと認識して言葉や短歌に落とし込むのが本当にうまいと思う。こういう人もいますよ、あなただけではないですよ、大丈夫ですよ、っていつも勇気づけられている。

ホテルカクタス

江國香織

「ホテルカクタス」


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大人のための童話なのかも、という印象。

というのも、登場人物が、帽子、きゅうり、数字の2、という人間ではない人たちだから。彼らの名前はあだ名ではなくて、きゅうりはシャワーを浴びれば身体の緑が冴えるし、数字の2がのびのびと寝る時は数字の1のような格好になる。そんな描写に思わず、ふふ、と笑ってしまった。しかも、帽子は帽子らしく、きゅうりはきゅうりらしく、そして22らしく、それぞれがそれぞれらしい性格をしているのもおもしろい。

この物語は心がきゅっと締め付けられるような恋愛話もなく、細かな心理描写が散りばめられてることもなく、穏やかに流れていく日々のようで、やさしい物語だった。


物語後半で帽子が言った「世の中に、不変なるものはないんだ」という言葉。

童話のようだと思って読んでいたはずが、急に現実に引き戻されたような気がした。実際、私が旅をしている中でも、このおじいさんには次来た時はもう会えないんだろうな、この古い建物の町並みはそのうち壊されて新しい建物になるんだろうな、などと考えることが度々あった。そう、帽子の言う通り、世の中はどんどんと移り変わっていくのが常なのだ。


だから、仕方ない気もするけれど、約1年ぶりに日本に帰ってきたので、自分の日本語の表現力が乏しくなっていて、感想が貧相になってるのが悲しい。リハビリが必要だなぁと感じた。

蒼い時

山口百恵

「蒼い時」


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もうすでに完結しているコンテンツだから安心して接することができる、というのもあるのだと思う。

数年前から私は山口百恵のファンなのだ。


私のカラオケの十八番は「プレイバック Part2」。歌いながら泣いちゃうのは「秋桜」と「さよならの向う側」。最高にかっこいいと思う曲は「ロックンロール・ウィドウ」。

母の影響もあってか、有名な百恵ちゃんの歌はほとんど歌える。

それほど好きなのだ。


百恵ちゃんは私が生まれる何年も前に引退している。

誰かが言っていたけれど、昔のアイドルを今追っかけるのは考古学者に似ている。私たちは古い雑誌の記事や動画を"発掘"して喜ぶのだ。

Twitter上で、百恵ちゃんの「プレイバック Part2」と沢田研二の「勝手にしやがれ」をテレビ番組でコラボしていたことを知った時には鼻血が出そうなくらいテンションが上がった。この組み合わせ、最高じゃないですか。若い人にはわかりませんか。いや、若くなくてもわかりませんか。すみません。


今回の本は、古本屋でたまたま"発掘"した百恵ちゃんのエッセイ集。

今まで華やかな百恵ちゃんしか追いかけていなかったので、裕福ではなかった過去や父親との関係、裁判の事件などを初めて知った。

21歳で芸能界を引退した百恵ちゃん。そんな若い子がこんな苦労をしながらも、凛としたイメージを壊さないように、自分で考え、行動していたのだと思うと心がぎゅっとなる。

自分が21歳の頃は何をしていただろうか。


引退のさよならコンサートではファンから「百恵ちゃん辞めないでー!」と言われていて、それに対して同じ気持ちでいた私だったけれど、この本を読んでからは少し考えが変わった。百恵ちゃんには芸能界から離れて、平和で穏やに暮らしてほしい。幸せになってほしい。そう思うようになった。

引退してから38年が立ちますが、今、幸せですか?百恵ちゃんが幸せなら私も嬉しいです。


ちょっとしんみりしてしまったので、最後に本書で私が気に入ったフレーズを。

「髪型を変えるということは、女にとって勇気のいることではあるが、新しい自分を発見するキッカケになるし、たったそれだけのことで、本当に生まれ変われたような気持ちにもなる。

髪型を度々変える人は、移り気だという。たしかにそうかもしれない。しかし、移り気は冒険心の第一関門である。画一化された日常生活の中で、ささやかな冒険心を満たすには、髪型を変えることぐらいしかないような気もする。」

私も髪型を変えてみようと思っている。東南アジア系のような、一目見た感じでは日本人に見えない髪型。

旅人っぽさをもっと前面に押し出したい。