「旅をする木」
この本を読むタイミングは、本当に"今"だったんだと思う。
都会に疲れて、ストレスでおなかが痛くて、尊敬できる人も近くにいなくて。毎日ただただ目の前にある仕事をこなし、ぬるま湯に浸かってるだけのようなふやけた生活をして、"生きている"ということがぼんやりとしていた。
通勤電車の中で読んでいて、何度も涙が出てきた。うまく言えないけれど、豊かな感受性を持つ作者の描くアラスカに、素直に感動していた。
マイナス40度にもなる極寒の大地。冷たく灰色なイメージなのに、この本からはいつも温かみを感じた。
やっぱり、私の帰る場所は大自然の中なのかもしれない。あたかも人間が自然を制圧したかのように振舞っている都会が苦手だ。
しかし、作者は決して「自然は素晴らしい=人間は嫌い」の図式にはならない。おそらく、人間も自然のちっぽけな一部なのだ。
だから、作者はカリブーの群れだけでなく、エスキモーやインディアンと出会い、異文化(こんな簡単な言葉では一括りにできないけれど)を直接肌で感じた。
私も作者のように、魂の震えを感じたい。
そして、じっくり自分と向き合う時間をつくりたい。そのためにも環境を変えなければ。
最後に本文から引用。
"二十代のはじめ、親友の山での遭難を通して、人間の一生がいかに短いものなのか、そしてある日突然断ち切られるものなのかをぼくは感じとった。私たちは、カレンダーや時計の針で刻まれた時間に生きているのではなく、もっと漠然として、脆い、それぞれの生命の時間を生きていることを教えてくれた。自分の持ち時間が限られていることを本当に理解した時、それは生きる大きなパワーに転化する可能性を秘めていた。"
この本は、新しい生活をしたい私の背中を押してくれた一冊になった。