はらぺこ本の虫

読んだ本をゆるーくご紹介。ジューシーな文章が大好物です。

いつか記憶からこぼれおちるとしても

江國香織

「いつか記憶からこぼれおちるとしても」


f:id:askbooks:20200417203927j:plain


江國さんの小説には固有名詞がよく出てくる。

だから、いつも半分リアル。本当に彼女たちがこの世界で生きているみたいな気がしてくる。


人は必ず誰しもバックグラウンドがあるわけで、でもそれは他人からは見えないもの。親しくなって話してくれてたとしても、全てを知ることはできない。

仲が良さそうに見える友達同士でも相手のことを本当はどう思っているのか、自分の家族関係、内緒にしているできごと、それらは全て冬の海に浮かんだ氷山に例えられるように、表面に出ている部分だけでは分からないものなんだよな、と改めて感じた。水中に沈んだ部分は見えない。


これは小説の中だけの話じゃなくて、現実世界でもそう。


机を並べて仕事をしている同僚、上司、私は彼らの全てを知ることはできないし、彼らも同様に私の考えや経験を完全に把握することはできない。歓迎会でバツイチだとカミングアウトされて驚いたり、見た目に似合わず猟奇的な性格してるなと感じたり、毎日顔を見合わせながら仕事をしていても知らないことがたくさんある。SNSでこんなに日常生活をシェアして生きている現代人でも。

だからこそ、相手はこうかもしれない、こんなことがあったからこう言ってるんじゃないか、など想像力を持って生活したいものである。

誰かを傷つけないために。


新型コロナウイルスの影響でテレビはコロナ関係のニュースしか流れなくて面白くない。外出は自粛しろと言われてどこへも行けない。売り上げも悪い。"コロナ疲れ"という単語も生まれる今日この頃。その溜まった鬱憤を晴らすかのように、SNSには心ない言葉がたくさん飛び交う。

直接ではないものの、批判的な言葉を目にすることによって、私も心に少なからずダメージを受ける。そんな時「この人は相手のことを考えて発言したのか相手のことをよく思ってないから表面だけ見てものを言ってるんじゃないか」と思うわけで。匿名だから関係ないとか、表現の自由を主張する前に、もっとものをよく考えて発言してもらいたい。


ちょっと脱線したけれど、この小説を読んで、誰しも目に見えないバックグラウンドを持ってるんだよな、ということを思い出したという話。