はらぺこ本の虫

読んだ本をゆるーくご紹介。ジューシーな文章が大好物です。

男友だちを作ろう

山崎ナオコーラ

「男友だちを作ろう」


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作者には勝手に親近感を覚えている。はっきりした理由はよくわからないけど、言ってることにしっくりくるからかもしれない。そして、文章から想像する彼女の雰囲気が私の友達に似ているとも思っている。


私も男の子と友達になりたい。

でも私のパーソナルスペースが狭すぎるので、すぐ肩を触ったり顔が近かったりするらしい(私自身はあんまりそういう意識はない)。勘違いさせてしまった男子たちよ、すまん。

私としては男性に恋愛対象として見てほしくない。恋愛対象というか、いつか付き合うだろうな、とか、キスできるかどうか、みたいな見方をしてほしくない。

作者もこう言っている。



・「自分が女性でなかったら、もっと友だちになれたのかな」と夢想したこともあった。男の人と仲良くなりたいと思ったときに、恋愛相手になるしかないなんて、嫌だ。


・せっかくこの大きな世界の、長い時間の中で、人と出会えるのに、恋愛のことしか考えないなんて、つまらなさ過ぎる。



世間としては少数派なのはわかってる。

それでも私の考えに同感してくれる男性諸君、私と友達になってください。そして釣りに連れてっていろんな話をしてください。

夕闇の川のざくろ

江國香織

「夕闇の川のざくろ


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不思議な小説(というか、絵本?)。

挿絵が独特で、なぜだか女の子の絵を直視できない。心の奥を見透かされそうな怖さ・凄みがあるからだろうか。


気に入ったフレーズ

しおんはとても孤独です。冬の空とおなじくらい、もしくはプラスチックのコップとおなじくらい孤独です。」


江國さんもきっと不思議な人なんだろうな。

一度会って話をしてみたい。

エヌ氏の遊園地

星新一

「エヌ氏の遊園地」


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あとがきを読んで驚愕した。

昭和41年(1966年)に出版された本らしい。

星新一の本だからそんなに新しくはないと思ってたけど、半世紀以上も前に世に出た本だとは思っていなかった。

本当に今読んでも面白い。それってすごいことだ。


あとがきで少しネタばらしをしていたけど、「電話のダイヤルを回す」という表現は古い表現になる可能性があるので意識的に避けていたそうだ。

ダイヤル式の電話がメジャーじゃなくなる予想をしてたなんて、さすがSF作家と言うべきか。

だって、小林明子の「恋に落ちて -Fall in love-(1985年)」もダイヤル回して手をとめるし、徳永英明の「レイニーブルー(1986年)」もかけなれたダイヤル回しかけてふと指を止めている。


将来を見据える目を持って小説を書くと、こんなにも色褪せないのか。

星新一が過去の人なのか未来の人なのかわからなくなってきた。

すごく面白い体験だった。

金米糖の降るところ

江國香織

金米糖の降るところ」


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人は自由でいい、いや、女は自由でいい、自由でいることは何も悪いことではない、と励まされているような気分になる。

本書に登場するのは、江國さんらしい、のびのびとした女性たち。


現在勤めている会社に社内恋愛をしている若いカップルがいる(本人たちは否定しているが)。

そのカップルを見て、以前、私も社内恋愛をしていた頃があったなぁと思いだした。辛い恋愛だったはずなんだけれど、今となっては甘い記憶しか残っていない。


"自分のもの"じゃないから、恋愛は燃えるんだろうな。

私はこんなに焦がれているのに、相手の方が一枚上手で、飄々とかわされたり。まるで本書に出でくるアジェレンのよう。あの頃は私も未熟だった。もうこの人しかいないんだって夢中になっていた。恋愛と尊敬の違いもわからぬまま。

それが自分の首を締めていて、辛かったんだと思う。


でも今は、もっと恋愛は自由でいいのかもしれない、と思うようになった。

いろんな人を見て、知る。それってとても大事なこと。

好きな人には会いに行けばいいし、好きと伝えればいい。相手のことを考えすぎると辛いから、もっとシンプルに行動する。


なんだかまた恋愛したくなってきた。

惚れっぽいうえに浮気っぽい性格ですが。

自由に生きてもいいですか?

短歌という爆弾

穂村弘

「短歌という爆弾」


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正直なところ、とりあえず穂村さんだから買った、というのが本書の購入の理由。短歌はどちらかというと好きだが歌人になりたいと思うほどではない。

なので、読んでいくと教科書なんじゃないかと思うくらい眠気を誘ってくる。わからん。むずかしい。でもたまにおもしろい。


読んでていくつか気に入った短歌があったので、その中のひとつを紹介。


白鯨が2マイル泳いでゆくあいだふかく抱きあうことのできたら

大滝和子


話は変わるが、本書は大阪の「葉ね文庫」で購入したので、店のブックカバーがついている。シンプルだけどけっこうかわいい。ずっとカバンに入れっぱなしなのでヨレヨレになってしまったが、このブックカバーのおかげで読み終えることができたと思う。よかった。本棚の肥やしにならなくて。

なつのひかり

江國香織

「なつのひかり」


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これは江國流のファンタジーなのだろうな。

不思議の国のアリスのように、変わった人(たまにヤドカリ)と出会い、次から次へと異なる空間へ場面が展開する。

いまいちつかみどころのない小説だと思ったが、もしかすると、これは実験的小説なのかもしれない。


文中に何度も出てくるフレーズ「◯◯の話をしよう。」も、場面転換する方法としては新鮮。しかも今作のような細切れの話には、この手法がマッチしているようにも思う。


また、ほぼ意味のない物語をこの世へ投入することで、

"小説というのは必ず意味を持たなればならないのか?"

という問いを投げかけているようにも思う。「読んで勇気が出た」「気に入ったから他の作品も読んでみたい」などという、読者の優等生的発言をこの作品は全く求めていない気がする。ある意味孤高で、易々と媚びない。そして圧倒的な独創性。

私の考えすぎだろうか。


ここまで書いて、巻末の解説を読んでみた。

担当した作家さんも解説を書くのに苦戦しているようだったが、私の感想よりずっと大人な対応だった。うまくまとめている。

江國さん、意味のない物語って言ってごめんなさい。今回は少ないけど、たまに現れるこころ躍るような表現は好きです。

例えば、麦茶を「澄んだ枯れ葉色のつめたいお茶」と表現するところとか。

モンテロッソのピンクの壁

江國香織=作、荒井良二=絵

モンテロッソのピンクの壁」


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江國さんの絵本。

「何かを手にいれるためには何かをあきらめなきゃいけないってことくらい、私はよく知っている」

まさにそれ、ここ数日私が考えてたこと。

ハスカップという名の猫は「うしろもふりかえらず、軽やかに」目的地モンテロッソへ旅立った。潔い。私は何をうじうじと悩んでいるのか。

早く会社を辞めて、旅に出たらよろし。


ということで、また行きたい町が一つ増えた。

イタリアのモンテロッソ・アル・マーレ。海沿いのリゾート地らしい。江國さんも行ったのかな。少し調べたところだと、少し色褪せたカラフルさがキッチュでなんともかわいい町。

村上龍料理小説集

村上龍

村上龍料理小説集」


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男の世界は金と女と酒でできてるのか、と思った。

高級料理を何事もないことのように盛り込んであるあたりに村上龍の教養が現れていて、かろうじて品が保たれている気がする。これがなかったらただのおっさんの女遊びの話じゃないか。カンブリア宮殿のイメージどこ行った。


帯には「誰もが息を呑むような、恍惚と快楽のオシャレな小説集」とある。果たしてそうだったのか。この本を読んだ男の人の意見を聞いてみたい。

結局のところ、女にはわからない世界なのかもしれないな。

真昼なのに昏い部屋

江國香織

「真昼なのに昏い部屋」


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キュンキュンしました。

ジョーンズさんと出会ったことで"外の世界にでてしまった"美弥子さん。

妻という名、主婦という殻からの解放。いいことなのか、悪いことなのか。

不倫の話なのに、ですます調で書かれているからか、絵本のように柔らかで何か美しいものを見るような印象を受ける。

装丁は名久井直子さん。おどろおどろしさと美しさの狭間みたいな表紙。さすが。

きまぐれ博物誌

星新一

「きまぐれ博物誌」


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今から約50年前の昭和43年から45年にかけて書かれたエッセイ。ショートショートは読んだことあったけど、エッセイは初めて。


まず冒頭の一文がいい。

「ことしもまたごいっしょに九億四千万キロメートルの宇宙旅行をいたしましょう。これは地球が太陽のまわりを一周する距離です。速度は秒速二十九・七キロメートル。マッハ九十三。安全です。他の乗客たちがごたごたをおこさないよう祈りましょう。」

この"ごたごたをおこさないよう"という所が、現代でいうと北朝鮮とアメリカのピリピリした敵対ムードにぴったりの表現だと思った。

ぜひとも来年の年賀状に使いたい。


星新一の小説の書き方は、話を"思いつく"のではなく、社会や現象を"分析する"という創作方法なのではないだろうかと思った。世界を分析した結果、あの風刺が効いた言葉やショートショートが生まれるのだ。

そして、現代(当時からすれば50年後の未来)を的確に予測する、想像力の豊かさというか、観察眼の鋭さに感心しっぱなしだった。

世界のおやつ旅

多田千香子

世界のおやつ旅


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ただのエッセイ・レシピ本と侮るなかれ。

この本は古本屋で冒頭の1段落を立ち読みして即買いを決めた一冊。

歯切れのいい文章が続く。

筆者のチカコさんはサバサバ、パキッとした性格なのかな、と思う。


生まれたての我が子の体重2990グラムを「バーゲン価格みたい」と言う例えも秀逸。

牛のタルタルを食べた時も、4分の1ずつとは言わずに「90度ずつ」と表現していて、言葉の選び方にグッときた。


"ご縁が2つ重なったらゴー"

"「そのうち」とか「徐々に」とか、うだうだしているヒマはない。しっかり1秒ずつ好きな道を歩こう。"

旅好きにとってはすごく心に響くフレーズも。さすが旅人。


日本は広い。でも世界はもっと広い。

「仕事嫌だな、辞めようかな、どうしようかな」なんてうだうだしているヒマはない。

私の旅歴も今年でちょうど10年だし、いっちょ、なんかやったろうかな、と思う。

案外どこででも生きていけるんだよ、って誰かが言ってたし。

すいかの匂い

江國香織

「すいかの匂い」


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短編集。どれも子どもの頃の話だったり、主人公が小学生だったりする。

江國さんは子ども目線で書いても安っぽくならないところが好き。ませた子どもという意味じゃなくて(たまにそういう子もいるけど)、子どもを一個人としてちゃんと扱っている感じがいい。

でも、「ビー玉よりおはじきの方が好き」だとか、「つつじが咲いていれば蜜をすう」という子どもらしさを忘れてないところも好き。


あと、川上弘美さんの解説がすばらしい。小説を読むことによって、江國さんのひみつを打ち明けられているような気分になるというのに納得。

孤独な夜のココア

田辺聖子

「孤独な夜のココア」


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田辺聖子の小説を読むのは初めて。

スヌーピーのおばあちゃんってイメージしかなかったけど、読んでみるとイメージとはだいぶ違った。


ジャンルとしては恋愛小説。

短編の主人公たちとは年齢的にもドンピシャで、2630歳あたりの女性にはぴったりだと思う。主人公それぞれの「20代後半の恋」にすごく共感できる。


そして、自分が関西圏で生まれ育ってよかった、と感じた。

会話はすべて関西弁。

きっと関西に住んでなければ伝わらないニュアンスなんかもあるんだろうな、と思いながら読んでいた。特に京都弁の語尾は難しい。例えば「着物の工程は十一もおすねえ」とか。私でも23度読み返した文があるので、きっと標準語に慣れてる人は読むのに苦労するはず。


あと、江國香織が好きな人にもおすすめしたい。主人公たちの雰囲気がどことなく似てる気がする。

でも、江國香織よりかはマイルドで、江國香織がブラックコーヒーだとすると田辺聖子はカフェオレかチャイ、といったところか。(チャイなのは、関西弁というスパイスが効いている、という感じ)


これから私の中で田辺聖子ブームが来るやも。


恋するたのしさ★★★★☆

すきまのおともだちたち

江國香織

「すきまのおともだちたち」


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大人のためにある絵本、のような気がした。

不思議の国のアリスにも似た理屈の通らなさとか、奇妙な登場人物。この世界ではお皿が車を運転できる。江國流ファンタジーがぱんぱんにつまっている。

そして、チラ、チラ、と現れる名言。

「私たちを本当にしばるのは、苦痛や災難や戸棚ではないのよ。幸福な思い出なの。」

意味深。でも、なんとなくわかる。

「あの頃は良かった」なんて言う人は、美しかった過去に囚われたまま、今を進めずにいるのだ、きっと。


それにしても、題名も世界観と同じで独特。

初めは「すきまのおともだち」だと思っていたけれど、よくよく見ると「おともだちたち」なのだ。漢字で書くと「お友達達」。なんだかおかしい。

でもここが、江國さんの感性が光るところなのかもしれない。

"おともだち"という、"知り合いではないけれど同じ空間にいる似た属性を持つ者"(例えばヒーローショー見に来ている子どもの総称として「おともだち」と使われる)というような存在が複数いるという感じ。読めばなんとなく理解できると思う。

まあ、あくまで想像でしかないけれど。


東直子さんの解説もいい。


"女の子"であることへの憧れ★★★★☆


ケンチとすみれ

柊和典

「ケンチとすみれ」


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ひっっっさしぶりの投稿。

最近は会社の課題図書しか読めてなかった。


この本は、うちの一番下の妹が「ぜひ読んで」と興奮しながら貸してくれた。というのも、同じ"すみれ"という名前だし、去年まで小説の舞台にもなってる高知に4年住んでいたこともあったから。

私は妹のように興奮はしなかったけれど、久しぶりに古い雰囲気を持つ小説を読んだなぁと懐かしくなった。あとがきによると、昭和42年のテレビドラマが原作らしい。


最近、戦時中あたりの話を見たり読んだりする機会が増えた気がする。本作もそうだし、年始に見に行った映画「この世界の片隅に」や朝ドラ「べっぴんさん」も。そういえば、3月に沖縄行った時には平和祈念資料館にも行ったんだった。

なんだか戦争について気になってるからなのかなぁ。世界は、日本はどうなるのかなぁ。


モヤっと★★★☆☆